仏教とヒンドゥー教が交錯する遺跡に溢れた国

CAMBODIA

- アンコール・ワットをはじめとした遺跡群 歴史を感じるスポットで古にタイムスリップする -

近代ではポル・ポトによる文化人の虐殺など、カンボジアは危険、遅れた文明といった、あまり良くないイメージを持つ方も多いだろう。しかし、表面的とは言え、政情が安定するに従って近年は観光客を中心にそのイメージは変わりつつある。

密林に埋もれていた遺跡群は、特に一見の価値ありだ。シェムリアップには、アンコール・ワットやアンコール・トム、バイヨンなど、11,2世紀に栄えたクメール文明の中心地が存在した。寺院という物質的な建造物に、仏教・ヒンドゥー教の精神的な世界観を表現。その唯一無二の遺跡は、世界中の観光客の心を掴み呼び込んでいる。例えば、世界的な旅行の口コミサイトでは、アンコール・ワットが人気の観光地として1位に選出されたほどだ。

 

 

そして、見所は遠い日の歴史を刻む遺跡だけではない。今に生きる人々の生活に根ざしたスポットも胸を熱くさせてくれる。中でもダイナミックに感情を揺さぶられるのは、トンレサップ湖の湖上生活の模様。
雨季には琵琶湖の約20倍もの大きさになる、東南アジア最大の湖だ。湖上では100万人以上が生活を営んでおり、水上に浮く家のほか、病院や学校など一つの町を形成しているのだ。湖から水平線が見られる不思議。その絶景に興奮がおさまらなくなるだろう。

そして、カンボジアで語らなくてはならないのは、近代の政治事情だ。
現在、政情は一見安定しているように見えるが、国民の不満は大きいのだそうだ。政治や警察などの国家的な機関は、縁故や賄賂等が蔓延っており、理不尽な被害を受ける一般市民は今だに後を絶たない。富は権力者に集中し、貧しい市民は状況を変えられずにいる。そういった表に出づらい不満が、表面上安定して見える水面下で押さえつけられている、ということも忘れてはならないだろう。

いずれにせよ、カンボジアという国の魅力が世界に再認識され、近年では多くの観光客が訪れているということは疑いないことだ。他の東南アジア諸国よりも、色濃く残るクメール文明の足跡。その独特な世界を、ぜひ体験して欲しい。

  1. アンコール・ワット
  2. バイヨン、タ・プローム
  3. ベン・メリア
  4. トンレサップ湖

観光スポット人気No.1にもなった壮大な遺跡

仏塔から登る朝陽

太陽の昇る前の暁時。遺跡全体がぼうっと青暗く浮かび上がってくる。
空が白み始め全容が見えてくると、とても巨大な遺跡の中に飲み込まれていることに気づく。仏塔へ伸びる参道はどこまでも続いているように見え、まるで異世界へ向かっている感覚に陥る。

アンコール・ワットをバックに、美しい日の出の鑑賞は観光の定番だ。オススメの鑑賞スポットは3つほどあるが、季節によって見る場所を選んだ方がよいだろう。
乾季であれば、一番外側の環濠のほとりがベストポジション。お堀の水に映り込む遺跡がとても美しい。そして、仏塔の間から顔を出す神々しい太陽。オレンジ色の光と共に、優しい暖かさを感じる瞬間は格別だ。
雨季であれば、遺跡内の聖池のほとりがよいだろう。仏塔を間近に見ながら、朝陽も一緒に眺めることができる。
しかし、どちらの時季も感動の瞬間を味わえることに違いはない。遺跡の狭間から昇る太陽を見ていると、この瞬間を古人たちも毎日見ていたのかと、とても感慨深い。

回廊

アンコール・ワットには第一回廊、第二回廊、第三回廊と3つの回廊がある。この時代に建てられた寺院のスタンダードであり、その造り自体がクメールの世界観を表しているのだ。
それぞれの回廊の壁面には、アプサラを象ったレリーフがいくつもある。そして、中には江戸時代に訪れた日本人の落書きも発見されたりしている。

回廊の最初の見所は、第一回廊と参道が交わる地点。東西南北を正確に向いて交わっており、方位磁石を置くとぴったり方角が合う瞬間は感動的だ。
また、第三回廊も見逃してはならない。第三回廊は傾斜が60度もある急な階段で登ることになる。昼間は行列が出来るので、並ぶ必要があるがしっかり見ておこう。高さが50mほどもある回廊からは、地上を見下ろすことができる。当時は王様と司祭しか入れなかった場所。上空からの眺めは特別なものだ。

神話をモチーフにした精緻なレリーフ

第一回廊の東側を中心に、外側の壁面には神話や物語を表した長いレリーフが存在する。
興味深いのは、レリーフの一つ一つに描かれている個性的なキャラクター。中でも「天国と地獄」というレリーフは、物語の内容もよく伺い知ることができて面白い。
閻魔様が天国行きか地獄行きか、死者一人一人に対して裁きを行なっているのだ。地獄行きとなった者の末路は悲惨だ。口から突っ込まれた棒で串刺しにされたり、地獄の化け物に食べられたりと、どこか聞いたことのある苦しみを受け続けることになる様子が、事細かに描かれているのだ。

そして、これらのレリーフは当時の市民が彫ったものだそうだ。市民は兵士も兼ねていたので、戦争で駆り出された時には製作を一時ストップし、戻ってきたらまた続きを彫る。この繰り返しが多くの人の手でなされ、現在も立派に残る精緻なレリーフが完成したことを思うと、胸が熱くなる。

<アンコールワットの基本情報>
住所:Angkor Ruins, Siem Reap
入場料:大人:1日券37USドル、3日券62USドル、7日券72USドル 12歳未満は無料。
※上記入場料は、バイヨン、タ・プローム、プノン・バケン等の入場料も含んでいます。

クメールの微笑みが醸し出す不思議な世界

クメールの微笑みが印象的 バイヨン

「クメールの微笑み」をご存知だろうか。巨大な岩に柔和な微笑みが刻まれた、不思議な存在感を放つ石像だ。
日曜日のゴールデンタイムに放送されている、某大人気テレビ番組のセットにも使われており、記憶の片隅にある方もいるだろう。

バイヨンの最大の特徴は、4面にその微笑みを刻み込んだ石像が、遺跡内にいくつもあること。他の遺跡には見られない独特な建造物から放たれる雰囲気に、多くの観光客が戸惑う。想像の範疇を超えている、という表現にぴったりの遺跡だ。建造年代が近いアンコール・ワットなどでは見られず、なぜこのバイヨンだけにこの石像があるのかは謎。そのミステリーに、戸惑いと同時に惹きつけられてしまう。

<バイヨンの基本情報>
住所:Angkor Thom, Angkor Archeological Park, Krong Siem Reap 17000

ガジュマルの大樹に呑み込まれた遺跡 タ・プローム

映画「トゥームレイダー」の撮影場所にもなったタ・プローム。足を踏み入れると、異様な雰囲気にすぐに気付く。その違和感は、巨大なガジュマルの木々だ。遺跡の壁や地面などそこら中から根を生やし、タ・プロームの遺跡を押しつぶすような存在感を放っている。まるで木が遺跡を呑み込んでいるかのようだ。

遺跡は自然のダイナミックさを残すため、崩れている部分は修復されずにそのままの状態で保存されている。高さが数十mにものぼり、中には人がすっぽりと隠れてしまう空間を有する木も存在する。
人の手によって造られた建造物も、自然の力の前には儚いもの、と感じさせる威容をたっぷりと感じられる遺跡だ。

<タ・プロームの基本情報>
住所:Ta Prohm Cambodia
電話番号:+85-5-12-406-929

退廃感漂う苔むす遺跡 ベン・メリア

まるでラピュタの世界

シェムリアップの中心地から、車で約1時間。北東の方角に70kmほど離れた場所に、日本では見られないような迫力ある遺跡は存在する。
まだ何十、何百と密林に隠された遺跡があると言われるカンボジア。このベン・メリアは、つい数十年前に日本人によって発見されたばかりのものだ。遺跡はそのほとんどのが破壊されて崩れさっており、日本の考古学者が手を引いてからは中国に引き継がれているが、修復はほとんど進んでいない。

遺跡に漂う退廃感は、タ・プロームの比ではない。
回廊は天井部分が崩れ、無残にもただの瓦礫と化した姿を晒している。ガジュマルの木が遺跡全体を鬱蒼と覆い、瓦礫の表面を絨毯のように覆う新緑の苔が木漏れ日に照らされて輝く姿は、ある種の神々しさを感じる。
ラピュタの世界を思い出させる瞬間だ。

ベン・メリアはアンコール・ワットの数十年前に建造された寺院だ。アンコール・ワットほど巨大ではないものの、回廊などの造りはほぼ同じ。完成時の姿を想像することは容易いが、遺跡の中は崩落の危険がある箇所も多いため、見学できる場所は限られている。
可能であれば観光客の押し寄せる、午前9時前に訪れて楽しんだ方が良いだろう。退廃感溢れる幻想的な風景を、その目に焼き付けて欲しい。

<ベン・メリアの基本情報>
住所:Angkor Archaeological Park
電話番号:+855-63-760-079
アクセス:シェムリアップより車で約1時間。公共交通機関は通っていないので、タクシーまたはオプショナルツアーに申し込んで連れてきてもらうのがベター。

100万人以上が湖上で生活する東南アジア最大の湖

湖の入り口・トンレサップ川

トンレサップ湖はひょうたん型をした南北に延びる湖。湖の北端は、アンコール・ワットのあるシェムリアップから車で約30分ほどだ。
そして湖の観光は、小さいボートを使ったクルーズが一般的。クルーズ船が出発する港には、たくさんの船が繋留されている。港の周辺は家らしい家はほとんど見られない。田畑や草原、小高い丘が見えるのみ。雨が大量に降る雨季には、ひょっとしたら港周辺も水没するのかもしれない。
あまりにも大きい港だが、ここはまだトンレサップ川の下流の玄関口。これから始まるクルーズのスケールに、期待感が高まる。

問題もある湖上での集団生活

乾季でさえも琵琶湖の4倍、雨季になると20倍以上の大きさに膨れ上がるトンレサップ湖。
また正確な人口は不明なものの、湖上に家を建てて100万人以上が生活を営む、生活に密着した場所でもある。
湖上の集落にはスーパーや病院、小学校などもあり、一つの町として完全に機能をしている。子供達は手漕ぎのボートで学校に通ったり、嘘のようだが、一寸法師のようなタライで通うという光景を見ることもできるのだ。

だが、多くの人が住むトンレサップ湖には数々の問題も存在している。
湖上に住む方の多くが無国籍者。貧しいカンボジア人の他にも、戦争から逃れてきたベトナム人が暮らしていたりするのだ。無国籍者ということは、政府にとっては存在していないと同義。国からの社会保障など、生命に関わる根本的な支援などを受けられていないことを意味する。
そんな話を聞くと、観光地というだけではない、カンボジア現地の切実な状況や暮らしを考えさせられる。

<トンレサップ湖の基本情報>
住所:Tonle Sap Lake Cambodia
アクセス:シェムリアップのオールドマーケットから車で約25分

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