雑誌の特集なども組まれ、2018年に人気の旅行先として認知され始めてきたモロッコ。実際に訪れる旅行客は一気に増え、どの様な国なのか情報も多く取れるようになった。
しかし、日本から遠いことと、モロッコの国土が広く見どころもたくさんあるため、軽々しく行くことができない高いハードルがあるのが事実だ。
では、モロッコとは一体どんな国なのだろうか。
残念ながら、とても一言では表せられない。なぜなら、都市毎にかなり違った表情を見せ、バラエティに富んでいるという特徴を持っているからだ。
モロッコはジブラルタル海峡を挟んで、スペインの僅か15kmという近い距離にある。地中海に面したモロッコ北部は、ヨーロッパとの交流が盛んで、経済的にも歴史的にも、その影響が色濃く表れている。特に隣国ということもあり、スペインの影響は現在も大きい。
オリーブなどの特産品の輸出など、交易面での恩恵はあるものの、モロッコ国内にはスペインの飛び地がまだ2か所残り、そのことに対する反発も存在するのだ。
また、北部の大きな都市には、カラーがあるということも忘れてはいけない。白の街カサブランカ、青の街シャウエン、フェズ、バラの街マラケシュなど、街中の建物の色が表されている。どこも写真に映えるので、インパクトもあり女性にとても人気だ。
一方、モロッコの南部には、砂漠というまた違った光景が広がる。サハラ砂漠の北端に位置するモロッコの砂漠地帯は、時折雨が降ることもあるが、基本的には乾いた大地だ。粒子の細かい砂が堆積し、風によって刻一刻と形を変える砂丘が織りなす世界が続いている。
昼間の灼熱地獄では外で生活するのも大変だが、日の沈んだ夜にはひんやりと肌寒さを感じるほどに気温が下がる。また、街の光が入ってこない夜空には、イスラムの象徴である月と、モロッコの国旗にも描かれる星が瞬く。
この様に、南北で全く異なる様相を呈するモロッコ。その原因は、国土の中央部やや南に横たわる、険しいアトラス山脈だ。3,4000m級の山々が、モロッコを南北に分断するように東西に延びており、気候風土まで分かつ。だが、地中海からの湿った空気がぶつかることで、たくさんの水を貯えるこの山脈は、モロッコにとっては不可欠な存在だ。
日本人の旅行先としては、これまであまり存在感のなかったモロッコだったが、ようやく魅力が認知され始めた昨今。ずっと心に残る旅をしたいのなら、とてもお勧めの国だ。
青の街・シャフシャウエン
山麓にへばりつく一面青色の旧市街
世界広しと言えども、写真を見た時にこれほどインパクトを受ける街並みも少ないだろう。家の壁から路地の道路まで、一面真っ青な光景は一目見ただけで心に残る。
シャフシャウエンは、北部の街によく見られる、旧市街(メディナ)と新市街を城壁が隔てる都市だ。山の麓にへばり付くように広がり、争いの中で生まれた。15世紀に十字軍の迫害(レコンキスタ)から逃れるため、スペインから渡ってきたイスラム教徒によって作られたのだ。そして17世紀にかけての約200年間で現在の規模にまで広がり、急勾配の坂道や階段と細い路地が複雑に交わる街が完成する。
その後、1920年にスペイン領に組み込まれるまでは、イスラム教の聖域として異教徒は足を踏み入れることさえもできない、閉ざされた街であった。街が開放されるまでは、地中海沿岸部の街に見られる白壁の家が主流であったが、やがて虫除けのために青く塗り込められ、現在は観光目的に変わってきた興味深い背景を持つ。
そのような歴史を心に留めつつ、まるで迷路のように複雑に入り組んだメディナの路地散策は、冒険のようでとても興奮する。どこに辿り着くか分からない、どんな景色と出会えるか分からないドキドキ感が、足を前へ前へと進ませる。
シャフシャウエンは街全体が見どころではあるが、中でもお勧めのポイントは、街の東外れの山の中腹にあるスパニッシュモスク。シャフシャウエンのメディナが一望できるこの場所は、サンセットスポットとして地元の住民も推す場所だ。
サンセット前の時間帯には、モスクまでの山道を登る人で行列ができるほど。山の向こう側に沈む夕日と、オレンジ色の光に照らされる街の姿が、美しい黄昏時を演出する。
太陽が完全に沈んだ後も、街の明かりがキレイに瞬く姿を臨める場所だ。
商業都市・フェズ
世界一と言われる迷宮の市場
モロッコ国内で、イスラムの都市としてはもっとも古くにできたフェズ。この商業の中心都市であるフェズも城壁がメディナを取り囲んでおり、壁の内外で街の様子が全く異なる造りになっている。
旧市街は世界で最も複雑、と言われる迷路状のスーク(市場)が見所。同じ外観の道や家の壁、袋小路がよそ者を拒む雰囲気を漂わせている。特に夜は明かりも少なく、危険を感じることもある。土地勘がないと迷うこともしばしばあるので、注意したいところだ。
世界最古の大学とモスク
また、フェズで忘れてはならないのは、現存する世界最古の大学と言われている、カラウィーンモスク。859年にはこの中で宗教教育が始められたと言われている。またこの大学兼モスクは、旧市街の中でも大きな敷地を占めており、現在でもイスラム教徒の方が祈りを捧げる姿を見ることができる。
そして、商業都市として様々な特産品の生産拠点があるのも、この街の特徴だ。どの街のお土産屋さんにもあるジュラバやバブーシュなどの革製品、そしてタジン鍋。この街では、それらの製品を作っている工房を見学することも可能だ。
特に革製品のなめし工場は、染色槽が所せましと並び圧巻の光景。なめしに伴う強烈な匂いも、日本では経験できない貴重な思い出になるだろう。
バラの街・マラケシュ
モロッコ中の雑貨が集まる活気溢れる街
マラケシュはフェズに続いて、モロッコ内で2番目に古い都市だ。この街も例に漏れず、旧市街と新市街が城壁によって隔てられている。バラの街と呼ばれているのは、新市街の建物の外壁が、赤に近いピンク色をしているためとも。
また、モロッコで有数の大都市でもあり、新市街は多くの建物や車が走っておりとても発展している。他の国でも見られるファストフード店やリーズナブルなファッションブランドが数多く見られるので、新市街にいると伝統的な街とは感じられないほどだ。
新市街は生活に適したいい場所だが、旅をするなら旧市街の方がエキサイティングだろう。この街の一番の見所は、旧市街のほぼ中心に位置するジャマ・エル・フナ広場。「死者の広場」を意味するこのスポット、元々は公開処刑などを行っていた場所なのだが、現在では100以上の飲食を扱うテントが並び、大道芸が催されるなど昼夜を問わず活気に溢れている。
常に人が集まり、人が集まる所にものも集まる。値札のついていない雑貨品が露店に所狭しと並び、買い物客は店主と価格の交渉を行うのだ。ここでは、己の交渉力が直接価格に反映される。上手く値切れれば、浮いたお金で別のものを買う。買い物上手かどうかを試される場でもあるのだ。
また広場にはいくつかのスーク(市場)が隣接しており、狭い路地を有するアーケードには、びっしりとお店がひしめいている。貴金属を扱うお店から革製品、雑貨はもちろん、香辛料を売っているお店も軒を連ねる。人口密度が高く、薄暗い感じと熱気のこもった雰囲気は好き嫌いが分かれるところだが、非日常を味わえるスポットであるのは間違いない。
ステキな雑貨が安く手に入るので、女性にもお勧めのジャマ・エル・フナ広場。選り好みせず、ぜひ訪れてその活気を感じて欲しい。
砂漠の中の要塞都市アイト・ベン・ハッドゥ
自然と融合した天然の要塞
3,4000m級のアトラス山脈を挟んで、マラケシュの南東部。荒涼とした大地の中に、威容のある厳めしい集落が存在する。世界遺産にも登録されている「アイト・ベン・ハッドゥ」だ。岩山をくり抜いた住居が何戸かあり、今も6家族のベルベル人が住まう集落となっている。
アイト・ベン・ハッドゥはその昔、アフリカ中部のマリ共和国などからやって来るのキャラバンの、関所の役割も持っていた。また、他国からの侵攻に抗するための要塞としての機能もあったそうだ。
この世界遺産は頂上まで登ることが可能となっており、土壁・岩壁の間の急な階段を上がるようになっている。修復が完全にされていない場所が途中に多く見られ、崩れかけの壁がかなり目立つ。15分ほどで到達する岩山の頂上は360°視界が開けており、要塞として使われていた当時のものなのか、崩れかけた石造りの物見部屋が中央に建つ。今は抜群の眺望が見られ、新アイト・ベン・ハッドゥと呼ばれる街や、遠くアトラスの山々を臨むことができる。
また、『グラディエーター』をはじめ、数々の映画の撮影地として利用されることも。岩山と集落が一緒くたになったミスマッチ間が不思議な世界観を演出している。映画ファンでなくとも、魅了されてしまう壮大な光景だ。